家族の理解 若い鹿、老いた鹿

インターネットの掲示板を見ると、癌に限らず長患いの人が、「家族が理解してくれない」という悩みを吐露している。
でも、病気の人が自分の体調を理解してもらおうと説明すると、家族は要求ばかりされているように感じる。
こんな時こそユーモアが必要。

以下は、抗がん剤の副作用で起きた食欲不振や味覚障害により、家族の食卓が険悪な雰囲気になったとき、
母の説明で、料理を作って捨てる羽目になった人が、なんとなく納得したと言う話。

母は食事を顔をしかめて残した後、母はTVで動物園の飼育員の話を見たと話を始めた。

「若い鹿は、餌なんて毎日同じ、一種類を延々と与えても問題ない。がつがつ、もぐもぐ食欲旺盛、食べられればいい!って感じなんですって」
「ところが、年寄りの鹿はね、同じ餌だと翌日はちょっとしか食べない。さらに次の日は食べなくなっちゃう。
「それで飼育員は工夫して毎日違う餌を出すんですって。そうすると気が変わるのか、毎日ちゃんとたくさん食べるんですって」
「私はね、老いた鹿なのよ。」
「もうすっかり弱った鹿なの。」

そうか、おにぎりが食べられるならとそればかり出したのが、嫌だったのね。

用意した食べ物を粗末にされると、
「じゃあもう作らない!」
「せっかく作ったのに、文句言うなら食べなくていい」
「残すなんて失礼」という気持ちになってしまう。
「お料理をする妻から文句を言う夫への愚痴」を相談している掲示板を見るとほんと同じようなコメントが返信されている。
作る側の本音だよね。

でも今は癌が言わせているんだ、母じゃないんだから、病気なんだから。癌を憎もう!となんとか考えてきた。
そうやって切り替えるのも、癌や死を過剰に意識して疲れてしまう。

でも、癌どころか、ただの鹿でも弱るとそんな態度なのか。
「今日は柏の葉の気分じゃないんだよね」「笹も飽きたわー」とか思っているのかとしばし雑談した。

あまりに拍子抜けして、
「鹿ならしょうがないな」「鹿だもんねぇ」と家族。

面白い説明は家族の理解を助けるね。

買い食いしよう!癌患者が食べられたもの

食欲不振に悩む患者がペロリと食べたもの5つを紹介する。いずれもそこそこカロリーが取れる。
何を作っていいか悩み、疲れ果てた家族には役に立つ、買い食いリストになるといいな。

1.ドトールコーヒーミラノサンド
ホカホカのパンの香りで食べられる!悩んだときはソースがサッパリしているものを選ぼう。

2.ローソン「おにぎり屋 鮭はらみ」
ご飯の粒立ちがよい。ベタベタのお粥に飽きた人におすすめ。

3.四ツ谷にある「かすてら坂本屋」
一斤ばーんとあるのが見事で、食欲をそそったよう。

4.もち吉のせんべい
軽い食感で食べやすい。ご飯を見たくないときに。

5.プリマ.テイスト カルディ「ラクサヌードル」
病院食では絶対出てこないシンガポールのラーメン




1.「ミラノサンド
母が膵臓癌から派生した胆のう炎に苦しみ入院したときのこと。病院から「ご家族と一緒に食べていいですよ、私たちがどんなに工夫したご飯より、家族の力はすごいんですよ」とすすめられた。母は膳1/5も食べてないとのこと。病院の一階にあるトールコーヒーのミラノサンドとカフェオレを自分用に持って「一緒に食べようか」と訪問した。私は既に母が箸を置いて「もう食べられない」と嘆いているところに入っていったのだが、部屋にパンの香りが漂った途端、母のお腹がグーッとなり唾が出てきて、そのまま横取りされた。カフェオレも。

ここはモーニングセットも美味しい。自宅から自転車で5分だったので、誰も料理したくないときは、ホカホカをテイクアウトしてみんなで楽しんだ。


2.「おにぎり屋 鮭」
シンプルな塩味でとにかくご飯が美味しい、鮭も塊で豪華なのが良い。これは私(家族)の好物で、おやつに食べようと机の上に置きっ放しにしていたら、食べられていた。母は味覚障害の影響で、甘い味やしょうゆ味がとにかく不快だったらしく、塩と旨みの味付けがピタリとはまった。ミラノサンドと違って冷めても食べられるので、病室の冷蔵庫にもよく差し入れた。すい臓癌だと、周辺の消化器にも影響が出やすく、規定の夕方18:00の病院食は気持ち悪くて食べられかったけど、明け方4:00に、今なら何か食べられるかも!!ということがあるので。


3.「かすてら坂本屋」
頂き物。味覚障害で甘い物は嫌だ!とぼやいていたのに、これだけは食べていた。木目が粗めでしっかり膨らんだカステラで、ベッタリしていないのが良かったらしい。見た目も大きくて「ぐりとぐらのカステラ」を切り分けて貰ったような気分にさせる。

4.もち吉のあられ、煎餅
本人のもともとの好物で、缶入りを買っていた。適度な塩気と軽い食感で食べやすく、何より小分けで日持ちする。

5.プリマ.テイスト カルディ「ラクサヌードル」
麺が食べたい。しょうゆ味は嫌、うどんも嫌、素麺も嫌、スパゲッティはつらい、とぼやくので、私が旨いと思う袋麺いくつか供給したら、唯一気に入ったのがこれ。
少し辛いしコッテリしているので、弱った消化器系癌患者には重いだろうと予測したが、ラクサ?なにそれ?なんか面白そうね!と言う気持ちが食欲を沸き立たせたらしい。ただし、多少とはいえ調理があって面倒くさい。


とにかく患者が見た瞬間、嗅いだ瞬間に生唾が湧くようなものがいい。我が家はドトールコーヒーとローソンには本当にお世話になった。食べてくれるとみんながホッとした。

お見舞いに行く前に

癌患者にお見舞い訪問もしくは電話をする前に、次の2点をチェックしてほしい。

1.近親者を亡くしてから1年経っていない。

2.がん患者に良さそうな治療法/食事法を見つけた。

 

上記2点に該当する人は続きを読んでほしい。

 

1.対面、オンライン面談、電話などを避け、絵葉書でメッセージを送れないか検討してほしい。

近しい人を亡くすのは、自分で感じている以上に心に負担が大きい。

癌患者の姿を見たり、言葉をかけているうちに、心の傷が開く。そして闘病中の人をカウンセラー替わりにしてしまうかもしれない。

癌患者の終末期医療を提供するホスピスには、ボランティアさんを募集しているところがあるが、そこも家族を亡くして1年以内の人は応募できないようになっている。

絵葉書のいいところは、文字数がある程度制限されていること。お見舞いする側が抱える悲しみを書くほどのスペースがない。

そして、手紙やカードと違って癌患者の家族も文面を確認したうえで渡せること。癌患者がなにもかも曲解してしまう心理状態のときは、渡さない。落ち着いた時にそっと渡す。

なによりきれいな絵や写真を見た瞬間は、患者の痛みが紛れることだ。

 

2.頼むからやめてくれ!

癌患者も、家族も今時グーグルの使い方ぐらい知っている。単にググって出てきた程度の情報を渡さないでください。

本当に情報を提供したい、力になりたいと思ってくださっているのなら、もっとしっかり調べてほしい。以下に私がやっていた「医療情報は本当かどうか」調べる方法を書く。

 

(1)Googleで日本語で「教えてもらった治療法」を検索し、ホームページもしくは本を見る。

以下に該当するようなら、眉に唾を付ける。「個人の体験談(インタビュー)」「がんは消える」「みるみる消える」「治る」「抗がん剤は毒」ダイエット食品の広告とそっくりである。

ちゃんとした情報は数字で、確率で表現される。「牛ひれ肉を50g食べれば治る!癌が消えた!」ではなく、「3か月後300人中には50%の患者にがんの消失が認められた。一方対象群では、さらにその3年後の追跡調査では、」という感じなら、まあこの段階ではOK。

 

(2)Google Scholarを英語で検索

これはGoogleの運営する論文の検索サイトである。膵臓癌は「pancreatic  cancer」、これと治療法もしくは食事療法で出てきた食材、例えば玄米「Brown rice」を検索する。

日本語ではなく、英語なのは、最先端の研究者は日本国内だけではなく世界に認められたいと考えており、英語で論文を書くから。日本語だと最先端ではなく、ある程度普及した情報やただの事例が引っかかる。

 

検索の時点で、該当する論文がないことが多い。つまり、裏付けのない呪術的治療法ということ。逆に該当しそうな論文が引っかかったら、要約「Abstract」を読む。

コピペして、DeepLもしくはGoogle翻訳に貼ればいい。日本語にしてくれる。

読んでよい!と思ったら、同じ方法で論文の全文も読もう。

3件も見つかれば大したものだ。

 

(3)治療法を実施しているクリニックの形態

「免疫療法」「幹細胞」などは病院があるが、そのクリニックの「ベッド数」が最も大事な情報である。美容皮膚科じゃあるまいし、命がかかっている病気の治療をするのに24時間モニタリングする病床がないなんてありえない。

 

3点すべてをクリアしたら、患者に「良い情報」として以下を渡すことができる。

・論文のコピー

・論文の全訳

・治療法を行うクリニックの連絡先情報

 

ここまでやってくださったなら、本当にありがたい。無茶苦茶嬉しい。神様だ!

 

この作業は患者には負担が大きく、とてもできない。家族も疲れる。

母の癌が発覚してから、私はお見舞い客の持ってきた医療情報の真偽を確かめるという仕事に悩まされた。

フルタイムで仕事して帰ってから、夜の2時まで調べまくる生活が3か月。

そうして調べた結果、たくさんの人が持ってきてくれた治療法は、全部ゴミだった。

疲弊した私は、善意で情報を持ってきた人を心の中で、

「もし治療費に困ったら、100円均一で売っている石鹸を、健康にいいよ、毒を排出するのよ、若返るよと1万円で売り付ける」リストに加えて溜飲を下げた。

癌患者の力になる言葉

家族の偏見で、がん患者が喜んでいたお見舞い言葉ベスト5

第一位「大丈夫、シミ一つ増えてないわよ、お肌すごくきれいよ」
第二位「綺麗な人がきた」
第三位「いつまでもお元気でいてくださいね」
第四位「どこそこに、いい温泉があるよ」
第五位「いつドタキャンしてもいいから」

第一位、第二位は女性患者ならではの「美」に関する言葉。
特に第一位はもうBSCしかないと宣告された直後の一言で、ものすごく嬉しかったらしい。
母は同じ日に3回も目をウルウルさせて話してくれ、加えて別の日にもう2回は自慢していた。
美しさというのは健康の先にある。癌で体調を崩すと見た目にも自信を無くす。
周りも心配が先に立って「今日は大丈夫?」「元気そうね」と言うけれど、「おしゃれねー」「髪切った?いいね!」という言葉はガクッと減ってしまう。
でも患者はパジャマも脱毛隠しのウィッグも脱毛隠しの帽子も、
「顔色がよく見えますように」「これ、似合うかな?かわいすぎるかしら?」「今日の服に合う帽子は?」なんて考えながら、いつもよりずっと気を使って選んでいるのね。

第三位は、大親友の言葉
「いてくださいね」というのがとても上手な表現と感激していた。頑張って耐えているとき、「生きていることを喜んでくれる人」がいるというのはとても嬉しいようだ。

第四位、女性のお見舞いには行きにくい男性から、メールで旅行の提案。
元気な人も、癌の人も、旅行は等しくハードな現実から解き放ってくれる。実際に活用はしなかったけど旅行プランを考えてくれて束の間妄想を楽しんだ。

第五位、体調の急変が怖くて何もできない、遠慮がちになっている患者の引け目を軽減する一言。家族としてもありがたい。

癌になっても、同じ人。でも、どう接していいのかがわからず、遠ざかって行く友もいる。
何とか言葉をかけたくても、言葉を選ぶほど、ドンドン話せなくなる。「がん患者が言われて嫌だった」という記事は見るけど、「こう言われたい!」「嬉しい言葉」という記事は中々見つからない。

けど、癌患者は普通の人と変わらないのだ。癌だとわかる前、おしゃれだった人は、癌になってもおしゃれしたいと思ってる。癌だと知る前はどんなほめ言葉を言ってたか?思い出してほしい。

入院患者が欲しい差し入れごはん

母は1年間に150日入院した。
これだけ長いと、病院食にはうんざりする。
医師は「とにかく食べられるものを食べてくれ」と差し入れ容認だったため、タッパーを時々持参していた。

差し入れで喜ばれるのは、病院食では食べられないもの。つまり、お値段が高いもの、日持ちしないもの。または特定の方にアレルギーが出やすいもの。
例えば、
牛肉、鯛、金目鯛、蟹、アスパラガス、茄子、ベビーリーフ、ルッコラパクチーなど。

病院の食事は、予算があるから割安で、日持ちする、癖のない使い回しやすい食材がよく使われている。
例えば、キャベツ、大根、ジャガイモ、玉ネギ、人参、卵、鶏肉、コーン缶など。
足は早いが、安いモヤシも。
これらは、本当によく出てくる。病院も頑張って色々な調理法で出してくれる。このため、私のような素人が、この食材で工夫した料理を出したところで、大して喜ばれない。

でも、食材さえ考えて選べば、洗うだけ、茹でるだけ、でもとても喜んでもらえた。

抗がん剤治療中の洗濯、お風呂問題

抗がん剤治療中、洗濯物を家族の物と一緒に洗う?別にする?

我が家では癌患者とその他の家族で別にしていた。患者のは、外出着を除いてしっかり乾燥機まで。

理由は、家族の服やタオルから感染症やかぶれのもとになる何かが、万が一でもくっついてしまうかもしれないから。干したとき、花粉が付くかもしれないから。乾燥機の方が柔らかく乾き、肌を傷つけないから。

コロナからノロウイルスまで、タオル類を家族で共有しないとよく言われている。洗うのは一緒でよいらしい。でも、服のシミだって落ちないときがあり、免疫が弱っている患者に十分なほど落ちるか、心配だった。

お風呂ももちろん一番最初。

母の癌友(がんゆう)さんのお話では、別の理由で、分けているとのことだった。
患者の汗から抗がん剤が溶け出しているかもしれないから、洗濯物は別、お風呂は患者の後、入れ直す、らしい。

本当に色々な考え方があるもんだ。

当ブログの目的

本ブログでは、がん患者の家族のヒントになるような情報を提供することを目指します。

 

コロナ以前、AzusaYamaの母は、すい臓がんステージⅢbを宣告されました。

その後、積極治療、延命治療、緩和ケアと方針を切り替え、「みんなにありがとう、と伝えておいて」と言ってこの世を去りました。

家族として、してきたこと、もっとやれたとおもうこと、これはよかった、失敗だったと思うことを記録します。

 

AzusaYamaは医療従事者ではありません。このため、特定の治療や食事法、民間療法に関する情報提供はできません。

 

ですが、治療中に出会った言葉にずっと支えられてきました。

「もし貴方が、そうでなければ別の誰かがこの病に打ち勝てば、それはあなたとあなたの親、もっと古い祖先、友人たち、あなたの未来の子供たち、みんなが病に勝利したことになる。」

 

私の書く情報も、ひょっとしたら誰かの命を1秒だけ長く伸ばすことができるかもしれない。そうしたら、そこに新薬が間に合って、病に勝つときがやってくる。そう信じたいです。