お見舞いに行く前に
癌患者にお見舞い訪問もしくは電話をする前に、次の2点をチェックしてほしい。
1.近親者を亡くしてから1年経っていない。
2.がん患者に良さそうな治療法/食事法を見つけた。
上記2点に該当する人は続きを読んでほしい。
1.対面、オンライン面談、電話などを避け、絵葉書でメッセージを送れないか検討してほしい。
近しい人を亡くすのは、自分で感じている以上に心に負担が大きい。
癌患者の姿を見たり、言葉をかけているうちに、心の傷が開く。そして闘病中の人をカウンセラー替わりにしてしまうかもしれない。
癌患者の終末期医療を提供するホスピスには、ボランティアさんを募集しているところがあるが、そこも家族を亡くして1年以内の人は応募できないようになっている。
絵葉書のいいところは、文字数がある程度制限されていること。お見舞いする側が抱える悲しみを書くほどのスペースがない。
そして、手紙やカードと違って癌患者の家族も文面を確認したうえで渡せること。癌患者がなにもかも曲解してしまう心理状態のときは、渡さない。落ち着いた時にそっと渡す。
なによりきれいな絵や写真を見た瞬間は、患者の痛みが紛れることだ。
2.頼むからやめてくれ!
癌患者も、家族も今時グーグルの使い方ぐらい知っている。単にググって出てきた程度の情報を渡さないでください。
本当に情報を提供したい、力になりたいと思ってくださっているのなら、もっとしっかり調べてほしい。以下に私がやっていた「医療情報は本当かどうか」調べる方法を書く。
(1)Googleで日本語で「教えてもらった治療法」を検索し、ホームページもしくは本を見る。
以下に該当するようなら、眉に唾を付ける。「個人の体験談(インタビュー)」「がんは消える」「みるみる消える」「治る」「抗がん剤は毒」ダイエット食品の広告とそっくりである。
ちゃんとした情報は数字で、確率で表現される。「牛ひれ肉を50g食べれば治る!癌が消えた!」ではなく、「3か月後300人中には50%の患者にがんの消失が認められた。一方対象群では、さらにその3年後の追跡調査では、」という感じなら、まあこの段階ではOK。
(2)Google Scholarを英語で検索
これはGoogleの運営する論文の検索サイトである。膵臓癌は「pancreatic cancer」、これと治療法もしくは食事療法で出てきた食材、例えば玄米「Brown rice」を検索する。
日本語ではなく、英語なのは、最先端の研究者は日本国内だけではなく世界に認められたいと考えており、英語で論文を書くから。日本語だと最先端ではなく、ある程度普及した情報やただの事例が引っかかる。
検索の時点で、該当する論文がないことが多い。つまり、裏付けのない呪術的治療法ということ。逆に該当しそうな論文が引っかかったら、要約「Abstract」を読む。
コピペして、DeepLもしくはGoogle翻訳に貼ればいい。日本語にしてくれる。
読んでよい!と思ったら、同じ方法で論文の全文も読もう。
3件も見つかれば大したものだ。
(3)治療法を実施しているクリニックの形態
「免疫療法」「幹細胞」などは病院があるが、そのクリニックの「ベッド数」が最も大事な情報である。美容皮膚科じゃあるまいし、命がかかっている病気の治療をするのに24時間モニタリングする病床がないなんてありえない。
3点すべてをクリアしたら、患者に「良い情報」として以下を渡すことができる。
・論文のコピー
・論文の全訳
・治療法を行うクリニックの連絡先情報
ここまでやってくださったなら、本当にありがたい。無茶苦茶嬉しい。神様だ!
この作業は患者には負担が大きく、とてもできない。家族も疲れる。
母の癌が発覚してから、私はお見舞い客の持ってきた医療情報の真偽を確かめるという仕事に悩まされた。
フルタイムで仕事して帰ってから、夜の2時まで調べまくる生活が3か月。
そうして調べた結果、たくさんの人が持ってきてくれた治療法は、全部ゴミだった。
疲弊した私は、善意で情報を持ってきた人を心の中で、
「もし治療費に困ったら、100円均一で売っている石鹸を、健康にいいよ、毒を排出するのよ、若返るよと1万円で売り付ける」リストに加えて溜飲を下げた。